『ロードムービー』

ロードムービー (講談社文庫)
「騙される快感を知った」と言ったけれど、わかっちゃう快感もあるのよな。とはいっても本の背表紙のあらすじ欄に「いつか見たあの校舎へ」とヒントが書いていなければ、すぐにはあの作品に関係があるのだろうと思い当たらずに、そうしたら気づくのが遅れたかもしれないけど。表題作の、トシの母親が医者であの口調、父親が二世議員、っていうところでピンときたときはにんやりしてしまった。
デビュー作だし、そのあとも続けて辻村作品を読んではいるけれどいちばんインパクトが強かった本なので、彼らにまた会えることは単純に嬉しい。それぞれの作品の登場人物が別の作品との間を行ったり来たりすることは、この作家には珍しくもないことだけど、1冊まるごとってのは珍しいんじゃないのかな。ああ、でも私は昭彦のその後が知りたい。
でも、「あの頃」のままなことが多いのは、少し不自然な気がする。高校の時にはこの相手しかいないと思っていても大人になって別れたりするし、つき合いが長くて大切でも、もう無理、ってこともあるし。そういうパターンも見てみたかったかも。大切であれさえすればいいと思うんだけど。