『キス』

キス (新潮文庫)
長く離れて生きていた父と娘が再会し、恋に落ちてしまったノンフィクション。静かで激しい話。でもどちらかというと母との話をすごく語っていた。痛い本。父は神父で、主人公の母と別れたあとにできた家族と暮らしているんだけれど、娘を愛するようになってからは執拗に彼女を所有しようとする。そのあたりはほんとうにぞっとする。でもこの父親についてもっと読みたかった。モンスターのままじゃ、単なる加害者のままじゃこわいままだ。でもノンフィクションだというから、きっと抑えているところも多いんだと思う。意識的にも無意識的にも。
こういう男がずっとこわかった。だからこそ父親についてもっと知りたかったけれど、これは読者のための本じゃなくて、著者自身のための本だから無理なんだろうな。だから語り落としたところもたくさんあるってわかるけど、それでいいんだと思う。ちなみに彼の名誉のために付け加えると、私が恐れた男は実父ではありません。女の子だった人ならきっと誰にでも少なからずした嫌なものです。