『さよならドビュッシー』

さよならドビュッシー (宝島社文庫)
8回目のこのミス大賞作、ということで雑誌の広告で見て気になって、それっきり忘れていた本。

ピアニストを目指す16歳の遙は。祖父と従妹と一緒に火事に遭い、ひとりだけ生きる。けれど全身大火傷の大怪我を負ってしまい、普通に生活することもできない体になってしまう。それでもピアニストになるためにコンクール優勝を目指して猛レッスンに励む。しかし周囲で不吉な出来事が次々と起こり、やがて殺人事件まで―

ミステリは普段そんなに読まないけど、これはすごく面白かった。遥の苦しさとそれでも頑張るところと、彼女のレッスンをするピアニストの岬さんの言葉がもう、沁みる。優しいけど甘くない。厳しい。でも真摯。自らも辛酸を舐めて、それでも諦めなかった「趣味は悪足掻き」の男。勿論フィクションだし、人によっては出来過ぎたキャラクターとか説教くさいと感じる人もいるのかもしれないけど、私は素直に聞けた。
私にはローティーンの知り合い?友人?が何人かいて、挫折して「つまらないおとな」になってしまった私は彼らに大人だって波乱万丈に面白おかしく生きているってことを見せてあげられなくなったこともまた苦しかったけど、まだそれもできるのかもしれないと少し思った。

作者はこれ以外にも投稿はしていたけれど、この作品がデビュー作で、50歳で、長らくサラリーマンをしていた人らしい。音楽小説?になったのは、長男が音大に通っていたからとか。若いときは書いていて、でも会社員時代にはまったく書かず普通にサラリーマンをしていた人が、岬さんというキャラクターを通して彼の言うようなことを語ってくれたというのは、嬉しいし、なんだか励まされることだなあと思う。

この岬さんを探偵役にもう1冊、『おやすみラフマニノフ』というのも出ているらしいので、それも読んでみようと思う。