『新釈走れメロス』

新釈 走れメロス 他四篇 (祥伝社文庫 も 10-1)
力いっぱい、だいがくせい!!って感じの小説。近代日本文学の5作を、現代を舞台に新釈したおはなし。この作家は個性的らしい、マニアックにファンな人がわりといるらしい、くらいしか知らなかったのだけれど、すごく面白かったので『命短し歩けよ乙女』も読んでみようと思う。
山月記」はアパートに引き篭もり、終わらない小説を書き続ける自称天才の斎藤秀太郎。笑えるのにせつない。原作は好きだし、高2のときの教科書で読んでこわい話だなあと思ったんだった。というか中島敦が好きで、ほぼすべて読んだ。作家カラーが加わって、こわかったりせつないだけじゃなく、この斉藤青年は阿呆だ。他の小説にちらっと出てくる彼はちょっと可愛い。
「藪の中」も原作が好きな作品。原作がわかっているだけに、次々と出てくるいろんな人の証言の、微妙な食い違いに注目してしまう。映画を取る青年が、自分の彼女とその元彼氏を自分の映画に出演させ、よりを戻すストーリーを撮る話。何年か前、私の好きなダンサー服部有吉がこれを舞台でやって、それもすごく面白かった。
走れメロス」はいちばん好きかも。これ外で読んだら危険!噴き出すこと数知れず。友達を人質に、明日の夕方までに帰ってきて文化祭のステージで桃色ブリーフいっちょで『美しき青きドナウ』に合わせて踊らなければならない青年の逃避行。ばかだー大学生!これ、京都に住んでる人ならもっとくすくすポイントが多くて面白いんだろうな。
桜の森の満開の下」は、恋人の言われるがままに小説を書き、売れて有名になってお金も名前も上げた作家の話。やっぱりこわい女。ただ私は映画版も観ていて、岩下志麻サマが演った女のインパクトが強すぎるたかな。ここにも斉藤青年が登場。
「百物語」は京都の蒸し暑い夏の夜が体感できちゃいそうな話。主人公が森見なのも原作どおり。これだけいまいち、かなああ。

全体的に斉藤青年に持ってかれた感じ。「山月記」はおかしくもせつない話なんだけど、他の編に登場する斉藤青年のダメっぷりが、もうもう。